世界最高レストランのシェフを育てた「おふくろの味」Can-Roca
世界でいちばんおいしいレストランの“エル セジェ－ル デ カンロカ”は、ジローナ旧市街から3kmほどの距離にある。 さすがに人気が高く、予約がとれるのは早くとも11ヶ月後。世界ナンバーワンの味を楽しむには、この店を訪れるためにスペイン旅行のスケジュールを練らなければならないのだった。
ミシュランガイドブックの三ツ星評価の基準は「この店を訪れるために旅行の計画をたてる価値がある店」だから、当然同店には三ッ星がついている。
しかしながら11か月も前から旅行の計画を立ててはいられないので、今回は“エル セジェ－ル デ カンロカ”そのものではなく、カンロカのスタッフが食事をとる店に行くことにした。 その店はカンロカから歩いて3分ほどの距離にある。外観はスペインによくある普通の食堂だ。
店の前まで来てもやはりなんでもない食堂である。
店内は、バーのカウンターと食事用のテーブルがある、ごくありきたりの内装だ。客も近所の人ばかり。この店の特徴を聞かれても答えられるようなことは特にないなあ。
しかーし、内装はともかく、この店には特筆すべきことがある。エル セジェ－ル デ カンロカのシェフやスタッフ全員がここでまかないを食べるんだそうだ。
ちょうどぼくが店に入ったら、シェフの1人、ジュゼップ ロカがまかないランチを食べ終えて出てくるところだったので、いいタイミングとばかりに写真を撮らせてもらった。
“エル セジェ－ル デ カンロカ”は、ロカ3兄弟が営むレストラン。ジュゼップ ロカは次男で、ソムリエをしている。
どうしてこのあまりにもフツーな食堂で世界ナンバーワンレストランのシェフやスタッフたちが食事をしているかというと、この店はロカ3兄弟の両親が営んでいるのだ。
だからこの食堂の名前は“カンロカ”だ。カンロカはロカの家という意味。息子たちは親の店名をひきついで自分たちの店の名を“エル セジェ－ル デ カンロカ”にした。セジェ－ルはワインセラーとか貯蔵室の意味。 この食堂の味が世界ナンバーワンレストランの源流なんだねー。 そう思ってあらためて店内を見渡してみても、やはりフツーの食堂である。
カンロカはメヌ デル ディア（日替わり定食）だけで勝負している食堂。1皿目と2皿目は3種類の中から選べ、デザートは5種類ぐらいから選べる。これにワインか水がついて値段は11ユーロ。本日のレートで1260円程度。
大衆食堂の定食が1260円というと割高に感じるかもしれないが、スペインではごく普通の値段。3品フルコースのうえデザートもつくし、ボリュームを考えると割安といえる。
1皿目はカネロニ、2皿目は豚足のにこみを選んだ。カネロニも豚足もカタルーニャの伝統料理。カネロニといえばイタリアが本場な気がするけれど、もともとカタルーニャ料理だったのがイタリア料理にとりいれられて有名になったんだって。デザートのクレマ カタラナも郷土を代表するスイーツ。
クレマ カタラナは、昨今の日本でもカタラナという名前で人気を呼んでいるスイーツ。居酒屋にもおいてあることがあるから食べたことがある人がいるだろう。カンロカではフツーの日替わり定食ながら、じっくり伝統の味が楽しめる。 クッキング中のお母さんの写真も撮らせてもらった。
お母さんの名前はモンセラットさん。これもありがちな名前。
Panasonic GX7のAFモードを顔認識AFにして素早くシャッターをきった。 モンセラットさんはやさしい笑顔の女性で、ややシャイな感じ。
さて、ぼくは日替わり定食をカンロカの新館でいただいた。新館といっても隣の建物との壁をぶちぬいて往来できるようにしたスペース。キッチンは共用だ。実はここは、もともとロカ兄弟が1986年に“エル セジェ－ル デ カンロカ”を開いた場所なのだ。
2006年にロカ3兄弟が100メートル離れた現在の場所に移転するまで、“エル セジェ－ル デ カンロカ”はここにあった。
現在は両親がこちらも食堂として使っている。開店直後は空いているが午後2時を過ぎると満席になり、席が空くのを待つ客もちらほらといる。食事をするなら開店直後の午後1時に入るといいだろう。
予約はまったく必要ない。 新館の入口。 地元の客はここから入っていく。
日替わり定食はボリューム満点で大満足。 というわけで、世界ナンバーワンを味わう事はかなわなかったが、世界ナンバーワンの源流の味を気軽に楽しんできたのだった。
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