写真をパクられたら提訴して使用料をいただこう。 訴訟費用は意外に安価だよ
自分の写真やイラストがネット上で無断使用されているのを見つけたら、まずは抗議のメールを送る。次に内容証明郵便を送る。前回はそこまで書いたので、今回はその続き。メールと郵便を送っても解決しなかったら仕方がない。著作権侵害で裁判所に提訴しよう。提訴の条件はこれだけだ。
- 当該作品は、あなたが撮影・作画したもので、著作権を有する
- 無断掲載した相手は国内の個人または法人(会社)である
- 著作権侵害を知った日から3年以内である
上記の3つが当てはまれば話が早い。まず勝訴だ。
少額訴訟なら裁判は1回で済む
著作権侵害の裁判は地方裁判所で起こせる。
ここでフォトグラファーやイラストレイターさんには耳よりな話がある。請求金額が60万円以下なら、簡易裁判所で少額訴訟をする方法があるのだ。
少額訴訟とは、原則として1回・約1時間程度の審理で、その場で判決を言い渡す裁判のこと。そして勝っても負けても控訴は出来ない。
普通の裁判は三審制で、地方裁判所で何回も審理をして、負けたら高等裁判所に控訴、そこでも負けたら最高裁判所に控訴となる。そんなふうに少額の裁判が長期化して原告(というか裁判所)の負担が大きくならないように設けられた制度だ。
提訴は、原則として相手住所を管轄する簡易裁判所で起こす。しかし金銭請求をする場合は支払地を管轄する裁判所でも訴訟を起こせる。つまり、フリーランスのフォトグラファーやイラストレーターなら自宅または事務所の住所を管轄する簡易裁判所で提訴できる。
この規定があってよかった。でなければぼくは審理のためにB社がある岡山県へ行かなければならなかった。というわけでぼくは、自宅近くの立川簡易裁判所でB社を提訴した。
自宅を管轄する簡易裁判所のロケーションはこちらでチェック。
提訴に必要な書類
提訴に必要な書類はこの3つ
- 訴状(申立書)
- 相手が法人なら登記簿謄本、個人なら住民票
- 著作権侵害の証拠(Webページをプリントする)及び、これまでの交渉の経緯(メールと内容証明郵便のコピー)などの、証拠書類
❶訴状を作成する
訴状(申立書)はパソコンで作成する。作成の仕方は後述する。
❷登記簿謄本を取得する
登記簿謄本には相手の会社の正式な住所商号が書いてあり、相手が法人(会社)なら必ず必要。取得は法務局の出張所か、ネットでもできる。公表されている住所が、登記簿謄本に載っている住所と違うことは珍しくない。
登記簿謄本は法務局でもらってくる。東京立川の法務局はイケアの斜向かいにある。ATMみたいな自動出力機の画面操作をすれば、わずか数分後に発行してくれる。初めて操作するときは緊張するが、分からなければ窓口の人が親切に教えてくれる(本当に親切だった)。なお、一般にこの書類を昔ながらの呼びかたをして登記簿謄本といっているが、現代はオンライン化されていて謄本はないため、履歴事項全部証明書を取得する。費用は1通につき600円。
訴える相手が個人の場合は、相手がその住所に住んでいることを確認しなければならない。確認の方法はいくつかあるが、相手の住民票(住民基本台帳のこと)を確認するのが一般的。プライバシーを気にする人がいるかもしれないが、目的が明確なら他人の住民票をとることができるのだ。でないと裁判書に提出する書類が揃えられないからね。役所に申請するときは「損害賠償請求裁判のため、裁判所に提出します」と説明する。事前に役所に電話にといあわせておこう。提訴の相手と直接会って確認する必要はない。
なお、そもそも住所氏名など個人情報が分からない場合は、事前にプロバイダーに情報開示請求をする。
❸著作権侵害の証拠を揃える
写真が無断掲載されたウェブページをプリントする。
すでにこの段階ではページごとサイトから削除されているだろうから、自分のパソコン内に保存してある当該ページをプリントする。このプリントは非常に重要な証拠である。
これまでに送ったメールと内容証明郵便のコピーは、すでに交渉が決裂し、相手に誠意がなく裁判を起こさざるを得ないことを証明する書類になる。
❶❸は各3部用意する。うち2部を裁判所に提出し、1部は自分で保存する。❷は裁判所に提出する1部のみ用意する。
本人訴訟で訴状を作成する
まずは訴状の作成だ。訴状を書くのは、
- 自分で書く
- 代理人(弁護士または司法書士)に書いてもらう
のどちらでもよい。訴状のことを申立書とも提訴状ともいう。
ぼくの場合は、全面勝訴しても12万円しか払われない少額事件だから訴状は自分で書いた。このように自分で裁判所に提訴することを本人訴訟という。
通常裁判は代理人訴訟(弁護士が訴状を書き、出廷して主張する、イメージ通りの裁判)が多いんだけど、ぜんぶ弁護士に依頼したら少なくとも20万円以上かかり赤字になるから自分でするのだ。少額訴訟に関しては本人訴訟が多いようだ。それに著作権侵害訴訟は「主張すべきこと」と「立証すべき事」が明確で「法律上の争点となるものがない」から、本人訴訟でイケルと思う。
忙しくて自分で訴状を書く時間がとれない、そして訴訟費用をかけられない人は、資料をまとめてから司法書士に訴状作成を頼むとよいだろう。司法書士は裁判に限らず公的書類を作成してくれる人で、マンション購入の際にも会うはず。この場合は1回3万円程度で引き締まった訴状を作成してくれるから頼んだ方がいいと思う。というのも少額訴訟は1回きりの裁判だから訴状と証拠はきちんとととのっていなければならない。雑な書類を提出するとこちらが正しくても負けてしまうのだ。
司法書士は、請求額が総額140万円以下の裁判のときに訴状を依頼することできる。費用は3万円程度。別途で裁判に出席することもできる。
裁判所は正邪を判断する場所ではない
裁判所は「社会を円滑にするために物事を一件落着させる場所」であって、何が真実で正しいかを見つけ出してくれる場所ではない。
違法にぼくの写真を使用したB社が悪いのは誰の目にもあきらかな筈だが、B社は「違法ではない」と開き直っている。一枚の写真なんかに金を払えないという体質の相手に対して有効な判決をもらうには、自分で書類を調えて提出しなければならないのだ。ここもお役所なのである。
そして裁判は被告を相手にするのではなく、裁判官を相手にするものだ。
慣れないお役所仕事にとりくんで円滑に進めるために、本人訴訟をするのであっても一度は弁護士に相談して手筈を教えてもらう方がいいと思う。窓口として日本弁護士連合会が運営する法律センターがある。都内各地にあり要予約。弁護士の相談料は30分5000円と定められている。
ぼくは自分で訴状を書きあげてから、それを持って弁護士相談所へ行ってチェックしてもらった。おかげで争点が絞り込め、よいサジェスチョンをもらえた。何よりも弁護士に訴状を読んでもらい「分かりやすくてよく書けています」と評価してもらって自信がついてよかった。
訴状の書式は自由
少額訴訟の訴状のPDFサンプルが裁判所のサイトからダウンロードできる。リンク先の「金銭支払(一般)請求」をクリック。ただし、このサンプルは手書きが前提の前時代的なものだから、内容を参考にするとしても書式はこのとおりでなくていい。
Googleで「訴状」で画像検索したほうが参考になる書類がヒットする。
訴状は内容も書式も自由に書いてよい。重要なのは明快で正確なこと。A4用紙に横書き、全角12ポイント、1行26文字、1ページ26行で書くとよい。字数制限はないものの込みいっていなければ本文2〜3ページ程度に収めよう。A4左側をホチキス止めする分の余白をとる。
文は、詳細に、論理的に、分かりやすく、を心がける。詳細にといっても同じ内容を繰り返すなど無駄なことは書かないこと。裁判官が読むのを面倒くさがる。
訴状は文字が並んでいるだけの簡単な書類だ。
ぼくがMacでJedit X(テキストエディタ)を使って作成した少額訴訟の訴状をPDFファイルにしてアップした。分かりやすいように注釈を入れたのでダウンロードして参考にしてください。
段落ごとに番号をふったのは、相手が反論書類を作るときに何に対する反論かを分かりやすくするため。また裁判官と話すときも分かりやすい。
実際に提出した訴状には個人の住所が入っているがPDFファイルでは空欄にした。登記簿謄本にはB社社長の住所が記載されているから実際には自宅住所も公開情報なのだが、そこまでここで明記する必要はないので。書き上げたら上記のようにいちど弁護士にチェックしてもらおう。
文字の表記には決まりがあり、それに沿っているかを確認する。出版業界にいる人ならクライアントごとの表記統一はいつものことだと思う。裁判所がクライアントだと思って訴状作成をする。
訴状が完成したらそれを持って簡易裁判所へ。その場で書記官がチェック(弁護士がみなくても書記官が校正してくれる)し、アカが入ったら持ち帰って書き直してから郵送で提出する。初校で校了にしたいので分からない事は何度でも電話やファクスで確認すること。プロの弁護士であっても手続きに関して電話で何度でも問い合わせるそうだ。それからメールでの問合せは受け付けていないみたい。
裁判費用はたったの2000円
裁判費用は請求金額によって決まる。
ぼくの件は請求金額が12万円だから裁判費用はたったの2000円だ。
それに、裁判所が郵便物を送るための切手4980円分を買って訴状とともに提出する。切手は裁判所の売店で適当な組み合わせにしたセットを買える。
2000円+4980円+600円=合計7580円ぐらいなら気軽に払えるよね。たったこれだけで裁判をしてくれるのだから安いもんだ。なお、勝訴すれば裁判費用と交通費は被告が払ってくれる。それから裁判終了後に余った切手は返ってくる。
本人訴訟なら費用は格安だからダメモトで提訴してみよう!
もし弁護士に訴訟を依頼したら、手付けで3万円、弁論に10万円、それから裁判費用実費などあわせれば13万円を超えるからこの案件は赤字になってしまう。弁護士ががんばって慰謝料をいくらか取れたらなんとか黒字にもちこめるかもしれないし、自分の時間を使わなくて済む。大切なのは、著作権侵害は割に合わないと相手に思い知ってもらうことだ。請求金額を弁護士費用とでトントンにできるなら弁護士に依頼してもいいと思う。
ぼくはこんなブログを運営しているぐらいだから文章を書くのが好きだ。だから訴状を書くのも苦にならない。むしろ今迄やったことのないことができて楽しんでいる。
訴状を書くときの注意点
1)著作権を有していることを明記
写真の著作権は撮影者に属している。ただし著作権は譲渡することができる。譲渡したらフォトグラファーには提訴する権利がない。「原告が撮影者であり著作権を有している」と明記し、自分にその権利があることを主張する。
2)使用料ではなく損害賠償
写真を無断使用された場合、被告に請求するのは「写真使用料」ではなく「損害賠償」だ。法律用語ではそう言うと裁判官に教えてもらった。「使用料」は事前に契約があった場合に使う言葉だという。
余談だが出版界では口約束で書類がなくてもきちんとした契約になる。「出版界には口約束の慣習がある」と認められているため。
3)損害賠償の算出基準
気になる損害賠償の金額の算出基準は、普段からレンタルフォト業務をしていればその金額を請求すればよい。
ぼくの場合は、フィルム時代の紙媒体のイメージから「扱いが小さければ使用料は1点3万円」となんとなく思っている。とはいえデジタル時代のウェブ用途で価格が同じとも限らないし、何より業界素人の裁判官に納得してもらわなければならない。そこでアマナイメージのWebサイトの料金表を基準にすることにした。
ぼくはフィルム時代に世界文化フォト、オリオンプレス、フォトニカなど有名なエージェンシーに写真を預けていたが、いずれも10年ほど前にすべてアマナに吸収合併されてしまった。アマナは「一人勝ち」の大手だから基準としては文句ない筈。といっても裁判官はアマナという会社を聞いたことがないから「損害賠償はレンタルフォト業界の最大手であり基準になっているアマナイメージズの料金表に準ずる」とわざわざ記した。アマナの料金表はこちら。
アマナの料金表によれば、ウェブ用途で、広告用途なら、2年間で6万円である。そして無断使用の罰金は2倍である。ま、そんなもんだね。したがって、ぼくはA社(B社)に12万円を請求できることになる。
裁判官は「なぜ罰金が2倍なのか」を気にする。算出基準の合理的な説明が求められるから、業界標準であることをきちんと説明できるようにしておく。
裁判は提訴から1ヶ月後
簡易裁判所で書記官と訴状の相談するときに、裁判日も決める。
だいたい1ヶ月後であることが多い。適当に都合のいい日を決めよう。
裁判所は、原告の提訴を受けつけたらその訴状と証拠のコピーを被告に書留で郵送する。受けとった被告がびっくり仰天して弁護士に駆けこみ、対策を依頼するかもしれない。そうして、被告本人または被告側弁護士から反論書が送られてくる。
そのやりとりに必要な時間が1ヶ月とされているようだ。
少額訴訟裁判その日
裁判当日は、原告も被告も必ず出廷しなければならない。欠席すると裁判は自動的に負けてしまう。
テレビや映画で見る裁判シーンと違って、少額訴訟は丸テーブルを囲んで裁判官・原告・被告が話し合うなごやか(?)なもの。そして1時間程度の裁判のなかで、お互いのそれまでの主張を踏まえて、更に主張を重ねる。
弁護士によれば、少額訴訟の開廷時には、それぞれの書類を読み終えた裁判官がほぼ判決を決めているそうだ。やっぱりお役所は書類社会なのだね。その上で裁判中の主張で判決が変わることもあるが、やはりはじめの訴状と証拠集めはきちんとやらなければ。
もともと著作権侵害訴訟は「主張すべきこと」と「立証すべき事」が明確で「法律上の争点となるものがない」から、書類さえきちんと整っていれば勝訴は間違いなし。不透明なのは、主張した損害賠償の金額がどのくらい認められるかぐらいなものだろう。
こうした訴訟では、裁判官が判決を出さずに和解を勧めることが多いらしい。そのために民生委員という人が丸テーブルに加わっていることもある。被告は非を認め、適当な額を支払い、裁判を終了するのがいいことだと思われているのかな。もし和解を勧められたら条件に応じて自分で受け入れるかどうかを決めよう。
少額訴訟は意外に簡単だから、どんどん提訴しよう!
少額訴訟では決着しないこともある
少額訴訟にはもうひとつのポイントがある。
被告が望めば通常裁判に移行できるのだ。その場合は1ヶ月に一度の割合で裁判が進み、結審までに数ヶ月かかることになる。
普通は通常裁判に移行することはあまりないらしいが、ぼくの場合もそうなった。というのは、ぼくのケースでは相手が日本国内で登記されていない旅行会社のため、相手を定めきれずに社長個人を被告にしていた。これは裁判の進めかたとしてはぼくの失敗だった。そこをつかれて裁判が長期化した。それに通常裁判は、被告は反論書を提出すればそれで出廷にかえることができる。つまり出廷しなくてもよいので、被告にしてみれば通常裁判の方が楽なのだろう。どうせ弁護士費用は会社持ちだし。
しかし、失敗だと思っていたがブログの人気記事になって多くの読者に励ましのメールをいただいただくことができた。見方を変えれば成功かもしれない。
B社社長は職人からの問合せにも知らん顔だ。B社のように職人の作業を軽視し、支払うべき代金を払わずに済ませて成りたつ会社は、平和で豊かな日本にふさわしくない。ぼくは日本人としてこのような岡山の建設会社に関わるのが恥ずかしいが、といって違法な行為をして平然としている会社がのさばっていていいとも思わない。すべての職人の立場を代表してこの訴訟を続けることにする。
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非常に参考になりました。ありがとうございました。