なぜスペイン サンティアゴ巡礼のシンボルはホタテ貝なのか?
週末も多くの方がサンティアゴ巡礼路の写真展に来てくださいました。
どうもありがとうございます。
巡礼のシンボルがホタテ貝の理由
来場者から、カミノ(サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路)のシンボルがホタテ貝なのは意味があるのかという質問をいただきました。この場で答えます。
理由は諸説あります。
- 聖ヤコブ(サンティアゴ)が持つ杖にホタテ貝が付いていた
- 聖ヤコブの生家は漁師でホタテ貝を紋章としていた
- 巡礼者がホタテ貝を食器代わりに使っていた
- 巡礼者がサンティアゴへ行った証明にガリシアの海岸でホタテ貝を拾ってきた
その他いろんな説が流布しています。しかしぼくが思うにいずれも嘘くさい。すべて後世に考えて付けられた理由でしょう。「巡礼者がホタテ貝を食器代わりに使っていた」なんてほーんとに嘘っぽいです。なんでホタテの貝柄を食器に使うんでしょうねえ。
「ガリシアの海岸でホタテ貝を拾ってきた」説もないですね。巡礼者は、サンティアゴ大聖堂に詣でたらきびすを返して帰途につきます。昔の巡礼者は帰路も歩かなければならないから、大聖堂に到着してもそれはまだ旅の半ば、帰宅までまだまだ長いのです。時間とお金をかけてわざわざガリシアの海岸まで歩きたいと思う人は少ないです。必要ないですからね。
ぼくが聞いた話のなかで、いちばん嘘っぽいのは「聖ヤコブの遺骸を運んだ船の船底に帆立貝がこびりついていたから」です。船底に帆立貝がこびりつきますかね? フジツボじゃあるまいし。伝説には思いつきのデタラメが多いという例の代表格といえましょう。
真の理由は今となっては分からないと思っています。つまり答えは「昔からそうなっていますが、理由は分かりません」。サンティアゴ巡礼路を紹介したスペイン語のウェブサイトにも「正確な起源はまったく分からない」と書いてありました。
ホタテ貝が右を向いている理由
次にカミノのロゴのホタテ貝が右を向いているのは何故か?という質問も多かった。
ぼくはこの標識を見慣れているから何とも思っていませんでしたが、初めて見る人には奇異に感じられるようです。
青と黄色のユーロカラーをあしらったこの標識は近年に制定されたものです。ぼくは大学でグラフィックデザインを専攻していたので、デザイナーの考え方が想像できます。
ふつう、グラフィックデザイナーがロゴのアイデアを考えるときは、形に複数の意味を持たせます。
カミノの場合は、地図を見れば分かるように、スペイン各地からの巡礼路が聖地に集まるイメージを、ホタテ貝に重ねて意匠化したのでしょう。こうしてロゴに深い意味を持たせるデザイナーの意図を感じさせてくれます。
それから、左から右へと放射状に広がるのは、人間の自然な感覚に即しています。たとえば、小中高の学校の窓は黒板に向かって左側にありますよね。これは、左側から光が当たるのが自然に感じるという人間の感覚を利用した設計なんです。
ホタテ貝のロゴにはそういった、デザイン上のいろんな工夫が見てとれます。
この写真の女性は彼女ですか?
この写真は人気の高かった作品のひとつで、DMにも採用しました。巡礼路でもっとも有名な場所のひとつ、サンロケ峠に建つ巡礼の像です。
写っている女性のポーズは指示してやってもらったのか、という質問が大変多かった。「奥さんですか」「彼女ですか」と訊かれました。
手に持つ杖の角度ができすぎだと多くの人に言われました。確かにその通り、本当にできすぎです。しかし、これは偶然です。女性は通りすがりの巡礼者です。ぼくの彼女や奥さんではありません。
ただし、プロのフォトグラファーなら誰もが経験し思惟したことがあると思いますが、偶然とは必然を別の言い方で表現した言葉です。
ぼくは、あらかじめこの場所でこのような写真を撮りたいと真剣に願ってカメラを構えました。そうしたら、それが具現化しました。
意図するところに結果あり、です。
ホタテ貝を着ける位置の変化
1990年代までの巡礼は、ホタテ貝を首から下げる伝統的なスタイルをしていました。
しかしこのスタイルは歩く度にホタテ貝が胸に当たって不快なのではないかと思っていました。案の定、といってはなんですが21世紀に入るころに変化がおきました。下の写真のようにホタテ貝をバックパックに着けるようになったのです。
巡礼が首からホタテ貝を下げてる写真と、リュックにぶら下げる写真とでは、撮影された時代が異なるのです。
その後、2014年頃から、まれにホタテ貝を着けない巡礼が現れます。こうなると巡礼者というより「旅行者」です。内心はそうなのかもしれませんが、あからさまにそうしている人は2010年以前にはいませんでした。心の内のあり方は本人にまかせますが、巡礼路を歩くならシンボルのホタテ貝を着けてほしいものです。
ディスカッション
コメント一覧
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学校の近くで何も知らずふらっと写真展に入り個展を拝見しました。
自分も長い旅がだいすきで、それを記録に残すのもだいすきです。
すごく自分のやりたいことと重なって楽しい展覧会でした。
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事前に情報がなくても来場してくださったのは大変嬉しいです。どうもありがとうございます。旅の記録はいろんなアプローチがありそうですね。やりたいことをやって楽しんでください。