あ、あれはクビ締め強盗だ!
メキシコシティでは、こんなことがあった。
ぼくのお気に入りのホテル、フォーシーズンズに泊まっていたときのこと。
ある日の夜、夕食をとるためにホテル脇のブルデオス通りを歩き始めた。フォーシーズンズはかなり大きいホテルで、ブルデオス通りに面して100mほど建物が続いている。歩道は植え込みと街路樹があって感じがいい。
歩き始めて50mほどしたところで、男がふたり、少し距離を置いて立っていた。
建物側にカジュアルなツンツンヘアの男、数m先の車道側にスーツを着た男。
それぞれ別の方を向いている。
その様子を見て、ぼくはピンと来た。
この2人はグルだ。スーツの男がぼくに話しかけて、ぼくが立ち止まったところで、もう1人の男が後ろからぼくの首を絞めて、ポケットの財布を奪う手筈だろう。
スタスタと歩いて2人の中間に来たとき、案の定、スーツの男が声を掛けてきた。
「煙草の火を貸してくれませんか」
ここで立ち止まったら後ろから首を絞められる。
ぼくはもう5歩進んで男の前を通り過ぎてから振り返り、2人ともが視界に入る位置に立って、ポケットからライターをとりだして右手を伸ばし、男の目を見て「どうぞ」と言った。ぼくはこの頃はスモーカーだったからライターはいつも持ち歩いていた。
スーツの男はポカンとした表情で、持っていた煙草に火を着けてから、言った。
「…ありがとう」
もう 1人もポカンとした表情をしてこちらを見ていた。
「どういたしまして」とぼくは返事をして、そのままスタスタと歩き続けた。
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