まぼろしの踊り、神技サンヒャン ドゥダリをこの目で見てきた
珍しい儀式を見てきた。
それは、少女が夢遊状態で目をつぶったまま踊る、サンヒャン ドゥダリ。少女の体に神が降臨し、思いのままに踊らせるのだ。
サンヒャン ドゥダリは神事であり、滅多に行われないため、なかなか見ることができない。バリ人でも見たことがない人が多く、もちろんぼくもこれが初めて。もっとも最近では観光客向けのショーでそのハイライト版が上演されるし、それならウブドで毎週演っているからぼくも見たことがある。しかし、この夜、プジュンで行われたのはそれとは違う、本物のサンヒャン ドゥダリだ。
オダラン(寺院創立祭)でもウパチャラ(諸々の儀式)でもないサンヒャン ドゥダリは、神さまが「降りたい」と僧侶に意志を伝えたら、寺院の隣の会場で準備が始められるという。
夢遊状態の少女が踊り始める
この夜、山村の会場には、神さまをお迎えするために村人たちが集まり、その降臨を誰もが座って待っていた。なぜか立っている人は一人もいない。
ガムランの演奏が始まって一時間ほどすると、香木の煙を吸って夢遊状態の少女がやおら立ち上がり、扇子を手に踊り始めた。手足がとても長い、きれいな娘だった。香木は白檀が主だという。
踊り手の少女は、神さまを自分の体に迎えのために数ヶ月も前から清めの儀式を重ねるそうだ。穢れを嫌うことから何ヶ月も地に足を着けないこともあるとか。
少女が纏う白い衣装は、サンヒャン ドゥダリ用の特別な衣装なもの。
グルンガン(飾りのついた冠)もまた、フランジパニが細かく刻まれ、他では見られない装飾をしている。ゆるやかに細身を場内に漂わせているその踊りは、レゴンの原型を感じさせる。
演奏が終わると共に少女は崩れ落ちた
ガムランの音が終わると共に、少女の体は力が抜けて崩れ落ちた。
すかさず幾人もの僧侶が駆け寄ってその体を支える。
しばらくすると少女はまた立ち上がり、音楽に合わせてゆっくりと踊り始める。
時折、座っている村人の頭に少女が扇子を置くことがある。
するとその人は、少女と共に踊らなければならない。見ていると、ここの村人たちはみな喜んで踊っている。どうやらこの儀式のために、村人全員が踊りの練習をしているらしい。いかに芸能の島バリであっても、踊れる人がこんなに多い村は他にないのではないだろうか。
本当はシャイな人もいるだろうが、今夜は神さまのお呼びだから断ることはできないという。すると、踊りが苦手な人は会場後方に座っているのだろうか。それとも今夜は「えいやっ」と踊るのだろうか。
こうして、踊りと、儀式が繰り返される。
これが深夜2時すぎまで続き、場合によっては(神さまが踊り終わらなければ)翌朝まで続くのだそうだ。
撮影カメラはNikon D7000を2台。レンズはAF-S DX35/1.8、AF-S 50/1.4G、AF85/1.8Sの3本。
ISO1000〜1600。シャッタースピードは1/60〜1/100。
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