【もうすぐ取り壊しの歴史遺産】太宰治が歩いた三鷹の跨線橋へ行ってきたよ

日本

三鷹の跨線橋

映画「人間失格」の舞台、三鷹

令和の今なら大炎上しそうな、妻子がいるのに次々と恋人をつくる放蕩作家、太宰治の半生を描いた映画 人間失格 をAmazon Primeで見つけた。主演の小栗旬も、からむ女優たちも好きな俳優なので見てしまった。ああ、二階堂ふみは好きだけど沢尻エリカはそれほどでもないかな。

小栗旬主演「人間失格」ポスター

太宰の最後の作品「人間失格」は有名ながら、世界でもっとも売れた日本の小説だったとまでは知らなかった。村上春樹の「ノルウェイの森」より売れたのか。映画の舞台の三鷹はぼくの故郷の国分寺の近く。なので、太宰治はぼくにとっては「近所の人」的な存在だ。といっても過去の人なので、どこか思い出のなかにいるかのような人だ。

玉川上水をまたぐ三鷹駅

映画を見終わってから、懐かしくなって三鷹へ来てしまった。

三鷹駅は、玉川上水をまたぐようにして建っている。玉川上水は徳川家康の命で造られた江戸の上水路としてテレビの歴史番組によく取り上げられるが、文学的には太宰治が恋人の富栄と入水自殺した川として知られている。三鷹駅の南口が太宰が暮らしたエリアで、写真の右奥が入水場所とされる。もちろん、当時はビルはなく駅もこぢんまりとしたものだった。

JR三鷹駅南口

駅前の赤鳥居通りという変わった名前の通りは、太宰が毎日のように往来した商店街。景色が激変したいまも同じ名前で呼ばれている。映画にも何度も登場するので、その違いを見てください。ちなみにセブンイレブンは三鷹駅赤鳥居通り店という支店名だ(下の写真に写っているローソンは下連雀三丁目店という平凡な支店名で、命名者に文学的センスが無い)。

三鷹駅前のシンボル 赤鳥居通り

赤鳥居通りに面したCORALというビルの5階に、太宰が妻と子供たちと暮らした小さな家の内部が再現されている。玄関から入って、奥に見える部屋が書斎として使われていた6畳間。

赤鳥居通りに再現された太宰治の家

太宰の正妻・津島美知子は、小さな子供二人を育てつつさらにお腹に一人を抱えながら、外に恋人をつくって奔放を繰り返す夫を支えて家を守る健気な女性であった。恋愛が太宰の作品の肥やしになることを知っているので、夫を愛する美知子はひとことも不平を言わなかった。映画ではそんな美知子を宮沢りえが好演している。

赤鳥居通りに再現された太宰治の家の様子

太宰はかなりモテた人で、映画は3人の女たちによる1人の男の取り合いが描かれており、「人間失格」というタイトルがふさわしい。若い人なら共感するところが多い(かも)作品だろう。

12月に取り壊される跨線人道橋

三鷹の跨線橋(こせんきょう)は、中央線をまたいで建設された住民の南北往来用の橋。太宰がここを通ったことでファンにはよく知られた橋だが、行き交う電車がよく見えることから鉄道ファンや、夕日のポイントでもあることから子連れ家族にも人気の橋だ。

三鷹の跨線橋

1929年(昭和4年)に建設された跨線橋はだいぶ老化が進んでいて、維持費がかかりすぎるため解体が決まっていた。取り壊しの工事が本年12月にされることになり、橋を見られるのも11月いっぱい、残りあと少しのこととなった。

三鷹の跨線橋を登り切ったところ
三鷹の跨線橋から線路を眺める人々

橋の上は思いがけず大勢の人がいた。制服の高校生、カップル、子連れ家族、カメラを持った年配のおじさんおばさん、あらゆる世代の人がいる。

電車が通るのを待っていると、鉄ちゃんが「次は何時何分に中央線が三鷹駅を発車します」と独り言のようにボソボソとアナウンスをして、それを聞いた子連れのお母さんが小さな息子に「次は何時何分に来るんだって」と言って聞かせたりしていた。子供も電車が好きだから、楽しそうにしている。一家団欒ですなあ。

三鷹の跨線橋の下を走る中央線
三鷹の跨線橋の下を走るあずさ
三鷹の跨線橋

建設当時は鉄が貴重だったため、鉄骨は英国の鉄道レールを再利用しているそうだ。デザインは当時のままだし、文化的なエピソードもある地域の象徴のような建築物なので、解体を惜しむ声が多いが、維持費が年間3000万円もかかりJRでまかないきれなくなってしまった。

太宰の墓がある禅林寺へ

三鷹市にある太宰治スポットのひとつ禅林寺は、赤鳥居通りを10分強歩いて人見街道に出たところにある古刹。ここにある太宰治の墓は献花が絶えない。

太宰治の墓がある禅林寺

いまもファンが多いのだろうね。この浮気ばかりしている男には意外に女性ファンが多い。「一途な愛」に魅力を感じるのだろうか。いまだったら噛みついてくる人文系フェミがいると思うが、太宰はどうやって戦うかな。

太宰治の墓

太宰治の墓の向かいには文豪 森鴎外の墓がある。こちらも人気の墓だ。

太宰治の墓の向かいには森鴎外の墓が立つ

玉川上水の緑道

太宰と恋人の入水場所は正確には分からないものの、おそらく玉川上水のこの辺りだろうという場所に記念の石が置かれている。

太宰治が入水した玉川上水の場所

玉川上水は、三鷹駅からまっすぐに井の頭公園へ伸びていて、その先にジブリ美術館があるため、外国人ツーリストが緑道わきの石畳の歩道を歩く姿をよく見かける。井の頭公園は吉祥寺駅のすぐ南口に広がる公園だが、公園の住所もジブリ美術館の運営も三鷹市なので、公式にはジブリへは三鷹駅から行くことになっている。なにしろ三鷹の森ジブリ美術館が正式名称の施設だからね。

三鷹駅南口界隈は太宰治関連の跡地が多く、訪ね歩くための地図も三鷹市が用意している。太宰が借りて二階を執筆場所にしていた肉屋は、現在はサイゼリヤになっていた。ますます太宰が身近に感じられます。

太宰が借りていた田辺肉店のアパート跡

跨線橋から見る夕陽も今月で見納め

三鷹の跨線橋の夕景

 

11月上旬は晴れの日が多く、毎日きれいな夕陽が眺められる。

三鷹の跨線橋から眺める夕陽

夕日と中央線を写真に撮る人たち。フィルム時代なら素人に撮れる風景ではないが、今ならスマホで簡単に撮影できてしまい、時代の変化に驚く次第です。

三鷹の跨線橋から夕陽を眺める人々

太陽が沈みきると、夕焼け空に富士山が浮かび上がってくる。

三鷹の跨線橋から夕陽に浮かぶ富士山を眺める

この橋の先に車庫があって、線路がいくつも敷かれ、空の光を受けて輝く無数の線路が印象的な景色だ。

三鷹駅の夕景

三鷹の跨線橋を人が渡れるのは今月いっぱいだから、この雰囲気を味わいたい人は急いで。12月に入ると閉鎖され、一度、記念イベントが行われてから解体工事が始まるという。解体後も階段部分は残されて、ありし日々の姿を想うことはできるそうだが、鉄橋部分がなくなってしまっては橋の雰囲気を楽しむことは難しい。

三鷹の跨線橋に夜のとばり

まっくらになってもまだ人がいる。日没が16:40頃だから、まっくらといってもぜんぜん遅い時刻ではないんだけど、古い鉄橋が寂しげて、ずいぶん夜更けに感じるね。

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Posted by ariga masahiro