オーガニック紅茶農園で過ごす日々、東ネパール イラム 高原の香り
紅茶の中で、ぼくが一番好きなのはオレンジペコのイラムティー。その名を聞いたことがなくても、上品な香り、カツンとした味は、ダージリンティーを思い出してもらえれば想像できると思います。なにしろイラムとダージリンは同じ山域ですから。
有機茶園の手作り料理
前回の記事に書いたように、豪雨のなか偶然に導かれてたどりついた宿は、単なるゲストハウスではなく茶園を経営する一家の家でした。クルンファミリー ティーファーム Kulung Family Tea Farm といって、母屋の隣にゲスト用の建物を併設して外国人を受け入れています。クルンは一家の名字ですから、日本語にすればクルン家茶園ですね。
中央が母屋、左の小屋が台所兼食堂、右がゲストハウスです。
朝食はネパール式に午前10時。奥さんのカウシラさんの手作りです。
メニューは、
湯がいたカボチャのつるの先
キュウリの輪切り
ごはん
ごまのアチャール
山椒のアチャール
マッシュルームとコリアンダーのスープ
この家で出されるものは、ほとんどすべて庭で採れたもの。農薬は使っていません。このメニューのうち、お米とごまと塩だけがマーケットで買ってきたものだそうです。
感心したのは、総菜のバランスがよく、盛り付けが上手で、とてもふつうの農家のおかみさんの手料理とは思えないこと。ネパールの家庭料理はもっと雑然としています。不思議に思って聞いたら、宿泊した西洋人に料理を教えてもらったそうです。
ぼくが滞在中、おなじメニューが出されたことは一度もありませんでした。「毎食ダルバートだと飽きる」という西洋人の意見をとりいれて工夫したそうです。
味と健康に気を配る食事
お米のごはんの量が少なく感じますが、それは「炭水化物は身体に良くないから控えめにしています」とのこと。炭水化物減量はぼくも4年前から実践していまして、以前に比べて体重が7kg減って身体が動かしやすくなりました。お米が少ないのは大歓迎ですが、最先端の健康法がこんな田舎にまで入っていることに驚きました。
とはいえ「ご飯のお代わりはいかがですか」と勧めるところはやっぱりネパール人です。ネパールの食堂では、お肉以外の、おかずとご飯はお代わり自由なのです。
アチャールもおいしかったです。アチャールは日本語で漬け物と訳されますが、おかみさんがその場でつくるから「漬け物」とはいえないと思いますね。では何かと言われると困りますが…ふりかけとも違うし…。ぼくは胡麻(に塩とトマトを刻んでライムを少しまぜた)のアチャールがすごく気に入りました。ごはんが美味しく食べられました!
このあと、おやつにでてきたチウラ(干した米)は胡麻和えのアップルがまざっていて、西洋のデザートのようなテイストでした。クルン夫婦はたいへん向上意欲があって、ぼくにも宿のあり方についてサジェスチョンを何度も求めていました。
この記事を読んだ人で料理好き、あるいはゲストハウス経営経験者がいたら、ここに滞在していろいろと知恵を分けて差し上げると喜ばれると思います。
おばあさんはいつも母屋の軒下のベンチにいます。食事もここで取っていました。敷地内が見渡せて、日当たりがよくて気持ちがいいのだと思います。76歳だそうです。
ダージリンとイラム
ダージリンは山間部ながら、英領インドの「夏の首都」でした。カルカッタから避暑に来た英国人が住んだため重厚なレンガ造りの英国建築が多く残っています。
しかしネパールは20世紀半ばまで鎖国をしていたため、イラムにはそのような歴史的建築物がまったくありません。英国人が開いたダージリンに対して、こちらはネパールのいなかという感じです。丘陵に連なる茶園の美しさに違いはありませんが。
イラムで茶の栽培が始まったのは19世紀中庸ですから、ダージリンと同時期です。おそらく英国人が、頼んで国境を越えて栽培させてもらったんでしょう。
茶摘みは女性の仕事です。新芽を摘む作業は、目がよくて指の動かし方が繊細な女性が適するそうです。男性が摘むと作業が雑なので品質にバラツキが多くなるとか。集められた葉の質と量が賃金に直結するので、自然に女性の仕事となったそうです。
茶園には男性もいるのですが、雑草刈りとか、茶摘みではない業務をしています。雑草もどんどん生えてくるから作業は簡単ではありません。
ものすごい速さで手を動かして茶葉を摘んでいきます。
茶摘みのスピード感を動画にしてみました。速いです!
茶摘み籠は、ネパールの伝統的な竹籠で、紐を頭に掛けるスタイル。
背負いの竹篭はネパール語でドコといって、荷物や商品などの運搬など何にでも使われます。紐はナムロと呼ばれます
ナムロは「紐」と説明されますが、機織り機で縦糸と横糸を平たく織ったものなので、用途は紐でも実際には織物の一種です。
そういえば2年前の大河ドラマ「真田丸」で、堺雅人扮する真田信繁が九度村で、手にしたナムロにヒントを得て真田紐を創り出すシーンがありました。テレビを見ている時は脚色しすぎではないかと思いましたが、後で知ったのですが真田紐の起源は本当にこっち系の紐らしいです。三谷幸喜さすがです。
信州とネパールは山がちな景色がそっくりですが、意外な結びつきがあるものですね。
茶摘みをするフランス人
フランス人の若者たちが竹籠を背負って茶摘みをしています。クルンファミリー ティーファームでは茶摘みのボランティアを募集していて、ボランティア好きな西洋人が応募してやってくるのです。
それにしても西洋人からお金をとって働かせるとは、いいアイデアです(笑)。この素敵なアイデアがどこから出てきたのかを尋ねたら、7年前にフランス人から授けてもらったのだそうです。今回はたまたまフランス人が2人滞在していますが、ふだんは英国、ドイツ、スペインなど主にヨーロッパ各国の若者がオーガニック茶園でボランティアをしています。アンドラ人や台湾人などもいて、よくこんなボランティアをみつけてやってくるものですね。滞在期間は平均すると10日間だそうです。
上の写真の青シャツの若者は、パリ郊外の学校で農業を専攻していて、3ヶ月ここに滞在します。茶摘みだけでなく庭の雑草取りとかいろいろやっていましたね。ここにはぼくのように「ブッキングドットコムをみて来てとりあえず1泊来ました」という人はいません。
さすがに1泊は少なすぎるので、結局ぼくは、みんなとお喋りしながら4日滞在しました。茶摘みはせずに、その辺を歩いて写真を撮っていました。旅するフォトグラファーですからね。
霧の多い土地がつくるダージリンティーの風味
地元の茶摘み女や西洋人ボランティアが摘んだ茶は、オーガニック栽培を重視している工場へ運ばれて製品化されます。工場ごとに農薬を使っていたり、いろいろと違いがあるのだそうです。フランス人たちと一緒に茶工場に見学に行きましたが、日本製の蒸し器が置いてあったりして、基本的には日本の茶工場と同じです。当たり前ですかね。
製品化された茶類。
ダージリンティーは半発酵紅茶なのですが、それ以外にも烏龍茶・緑茶・煎茶などいろんな種類がつくられます。烏龍茶も半発酵茶ですからダージリンティーと双子の兄弟みたいなものです。ダージリンティーの独特なフレイバーは烏龍茶にはありませんが。
ダージリンティーの風味は、この地方の霧が多い地形がつくりだしているそうです。
ティー フロム ガーデン
クルン家の有機茶園で採れた茶の一部は庭で天日干しされ、自家用にされます。ゲストはそれを自由に飲めるのです。
しかしながら、おかみさんが入れるよりも、ぼくは自分で入れた方が美味しいと思いましたよ。そのほうが紅茶のフレイバーを完全に楽しめます。いくら茶園を営んでいるといってもやっぱりネパール人、お茶の味をよく分かっていないと思いました。
彼らは、近隣で採れるお茶以外を飲んだことがないのです。茶工場の人でもそうです。お茶に詳しい人で、ここに泊まりたい人がいたら、おいしいお茶の入れ方を伝授してあげてください。クルン家の人たちは謙虚だし向上熱心だから、よろこばれると思いますよ。
日本人には懐かしい風景が広がる
近所のライ族のおじさん。どこからどうみても日本人のおじさんにしか見えません。この地域はライ族が多くて、クルン家もライ族です。このおじさんとクルン家は親戚なのだそうです。
おじさんの背景の茶園は、昔はそこでトウモロコシなどの栽培をして自給自足生活をしていたのですが、40年前に茶を栽培しはじめて現金収入が入るようになりました。茶は芽がどんどん出てくるので、野菜よりも栽培が楽なんだそうです。
険しい山が続くネパールの農村風景は、日本の信州の風景と似ています。神々を敬う生活も似ています。かまどの火をみていると、もしかしたらぼくのご先祖さまもこんな生活をしていたのかなー、と思います。
実際にはご先祖どころか、ぼくの実の父の子供の時分は信州でクルン家と大差ない生活をしていたのですけどね。日本は短期間にずいぶん変わりました。
いつもぼくの部屋に入り込んできたネコ。昼寝場所はほかに山羊小屋のトタン屋根の上とか、いくつか決まった場所があるようでした。
農家は、野菜にも家畜にも囲まれて生活しています。
あなたも茶園を購入しては?
近所に、売りに出されている茶園がありました。この写真に写っている一帯が、家と果樹付きで200万円ほどだそうです。一瞬、買っちゃおうかと思いましたよ。
ここに永住するなら買ってもいいですけど、そうもいかないので諦めます。読者の方で興味がある方がいたら、ぜひ現地で確認してください。
茶摘みを終えて家路に着く女性。
カメラを持って丘陵を歩く幸せをかみしめております。
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