ミツバチのささやき

スペイン

平原にぽつんと建つ白い農家。
典型的なスペインの風景だ。ぼくはこういう平原を見ると、いつもビクトール・エリセ監督の映画「ミツバチのささやき」を思い出す。幼いアナ・トレントのつぶらな瞳が印象的な佳作で、舞台である村の周辺の景色がちょうどこんな荒野だった。

「ミツバチのささやき」が作成された当時のスペインはフランコ独裁政権下にあった。言論の自由も表現の自由も制限されていて、圧制下の人々の荒涼とした心を、映画では荒野という風景で表現していたのだそうだ。

そんな荒野も、湿潤な森につつまれた日本で育ったぼくには、遠い異国へのあこがれをかきたてる、広々とした空間に見えた。ましてや映画で見たアナ・トレントのつぶらな、かわいらしい瞳といったらない。

ビクトール・エリセ監督とアナ・トレントは、フクシマの震災・災害をモチーフにした小作品をつくり、昨年9月に金剛峯寺で公開した。

タイトルはAna, tres minutos
(アナの三分)

公開時にはビクトール・エリセも舞台挨拶に訪れている。生涯に3本しか長編映画を作成しなかった佳作の大監督が、晩年に金剛峯寺で作品を公開するなんて、すばらしいことだ。

精霊のささやき

いま、こうしてスペインの荒野を車で走っていると、当然のことながら映画と現実との違いを感じる。なんといっても現実のスペインは暑い。しっとりした情緒感などなくて、喉が渇いて、頭がぼんやりしてくる。それにアナ・トレントはぼくと同世代の人。あのつぶらな瞳もすっかり過去のものとなってしまっている(残念)。

車を止めて、カメラを持ってひまわり畑に入ると、ミツバチがたくさん飛んでいる。ひとつのひまわりに、2〜3匹はとまっている。理科の写真じゃあるまいし、ミツバチのアップを撮っても仕方がない。しかし、ミツバチが去るまで待っていても、1匹去れば2匹やってくるといった具合で、シャッターチャンスはなかなかやってこない。ミツバチを避けて写真を撮るのは、結構大変な作業だ。

この写真にも、一匹だけ写っている。

「ミツバチのささやき」の原題は El espíritu de la colmena

蜂の巣の精霊という意味だ。しかし、この詩的な響きを日本語でどう表現したらよいのかわからない。よく、邦題は原題の意味に沿っていないわれるが、ヒマワリの間で飛び交う蜜蜂の羽音を聞いていると、精霊(日本的な表現で言えば神さまだろう)がささやいているかのようだ。

丘の上にそびえるカルモナの町

荒野を走り、そしてひまわり畑の間を走ると、丘の上にカルモナの街が見えてくる。2000年以上の歴史を持つ街だ。

断崖に面してアラブ人が築いた要塞を、14世紀にカスティーリャ王ペドロ1世が改装して城とした。写真の左手に見える大きな館がそれだ。現在はパラドールになっていて、ぼくは車のアクセルを踏んでその門を走り抜けた。
パラドールから外を眺めると、何十km先まで荒野が広がっている。

この街には、カトリック両王やペドロ1世といったスペインの英雄だけでなく、日本からは天正少年使節団も訪れている。ぼくが車で走った旧道を、もしかしたら彼らも通ったのかもしれない。当時もひまわりは咲いていたろうか。

パラドールに泊まるのだから、食事もパラドールでとりたいものだ。
ここはデザートが食べ放題だから、前菜とメインを控えめにしておきたい。
暑い上に、お腹いっぱい食べたら、自然と眠くなってくる。
外は気温が35度を超えている。

夕方まで休んで、気温が下がった頃に外へ出かけた。
やはりシエスタの国。日中はだれも外を歩いていなかったのに、この位の時刻になるれば、にぎやかな広場へ向かう人を、どこの路地でも見かける。

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スペイン

Posted by ariga masahiro