カタルーニャ独立運動が盛りあがるバルセロナに来たら、穏やかな秋空が広がっていた。
11月のバルセロナはプラタナスの並木が茶色くなって、景色が秋らしくなっていた。ランブラス通りを大勢のツーリストが散策を楽しんでいる。
アラゴン地方で見た輝く紅葉と違って、バルセロナのくすんだ茶色の並木には色気が感じられない。この街は地中海に面していて、温暖だから寒くないのはいいけれど、そのぶん紅葉が見られず季節感に乏しいのがやや物足りない。ツーリストのわがままなんだけどさ。
長いランブラス通りの中間あたりに、路面にミロのモザイク画が描かれた場所がある。
団体旅行のパンジャービー(インドのパンジャーブ地方の人)の待ち合わせ場所になっていた様子で、鮮やかな民族衣装をまとう女性たちが集まっていた。青い空と赤いパンジャービードレスとのコントラストが眩しい。
ミロのモザイク画のある町角写真を撮るつもりでしばらくねばっていたのだが、パンジャービーは増える一方だった。これではインドの町角のような写真になってしまう。ミロをあきらめて旧市街のほうへ行くことにした。
バルセロナは各国からのツーリストが集まっているが、このところ日本人の来訪者数は減っているという。8月にランブラス通りでおきたテロ事件と、独立運動のニュースの影響とのこと。日本人は海外の情報にうというえに過敏なので、なにか事件がおきるとまっさきに(場合によっては唯一)減ってしまう。
独立機運は盛り下がり中
バルセロナの街には、ほうぼうにカタルーニャの旗がかかげられていた。
しかし、予想したほどには掲げられる旗の数は多くなかった。
毎週日曜日のお昼には、カテドラルの前で地元の人たちがサルダーナを踊る。カタルーニャの伝統音楽にあわせて、手を繋いでステップを踏むだけ(に見える)簡単な踊りだが、民族アイデンティティの強い地域なので重要な行事だ。
しかし、独立の情熱をサルダーナにかける若者はあまりいないらしく、踊っているのはほどんどがおじさんとおばさんだった。
サンジャウマ広場もガラガラだった
カテドラルの南にあるサンジャウマ広場。カタルーニャ州庁舎とバルセロナ市庁舎が向かい合って建つ広場は、何かあるごとに人々で埋まる。
上のカタルーニャ州庁舎には、プチデモン前州首相が出入りする様子がテレビに頻繁に映っていたものだが、今日ここにいるのはツーリストだけだった。
せっかくなので、向かいにあるバルセロナ市庁舎を見学した。無料で公開されているのだ。
なかなか立派である。
もうひとつ、カテドラルの南側には「王の広場」と呼ばれる広場がある。奥の屋敷は、12世紀にバルセロナが独立国だった時代に王の宮殿だった。
新大陸に到達したコロンブスが、出資者のイサベル女王に航海成功の報告をしたのは奥に見える階段を登った先の広間でのこと。ここは世界史を刻んだ広場なのだ。
そんな歴史の舞台で、カフェを楽しめるのが21世紀の平和な時代。
カタルーニャ広場の平和な午後
さて、ここはカタルーニャ広場。
先週の日曜日は独立反対派がここを中心に30万人集まったし、その前の日曜日は独立派が100万人集まった場所だ。広場からグランビアの大通りまで周辺は人々で埋め尽くされた。
11月最初の日曜日は、どれほどの人が集まるかと思ってたここへ来たら、鳩に餌を与える人たちがいるだけだった。
日曜日は会社もお店も閉まっているし、あんまり人々は外に出てこない。デモがなければ静かな広場だ。交通機関のストがあるとも言われていたが、平常ダイヤだった。数日前にプチデモン前州首相が自分で車を運転して国外へ逃れ、フランスのマルセイユから空路でベルギーに逃亡してからは、運動もトーンダウンしているようだ。
亀裂は生まれないがモヤモヤが残る
カタルーニャ州全体でも独立派がギリギリ50%を超えないくらいしかいないそうだが、バルセロナでは他州出身者も多いし、外国人も2割以上いるので、独立に賛成しない人も相当数いるらしい。
カタルーニャ人と州外出身者のカップルでは、夫婦で独立賛成派と反対派に分かれることがあるという。
さぞ夫婦の危機でハラハラしているかと危惧するとそうでもなく、政治的意見が対立したからといって離婚の危機にはならないそうだ。というのもヨーロッパでは「意見の多様性」が徹底されているからだ。
例えば歴史上の事件でも、19世紀のナポレオン軍のスペイン侵略についてフランスの教科書では「スペインは遅れた地域なのでナポレオンが文明を伝えてきました」というようなことが書いてあるが、これも意見の違いの範囲としてスペイン人も許容している。不承不承かもしれないが「多様性」こそがヨーロッパ共同体の根本的価値観なので、争いにはしないという。
皆がおなじ意見になるわけがない
皆がおなじ意見になるわけがないし、異なる見地だからといって非難しない。互いを尊重し協調することで28ヵ国の共同体は成り立たっている。
フランコ時代の文化的な抑圧を恨んでカタルーニャ独立を語る層もいるが、一方ですでに「ヨーロッパ共同体の一員」という意識もあるから、独立に意義を感じないカタルーニャ人も少なくない。19世紀も20世紀も過ぎ去り、時代は21世紀に変わったのだ。
バルセロナ市庁舎の上には、カタルーニャの旗と、スペイン国旗が今日も翻っている。
とはいえ、民間企業でも役所でも、賛成派がいれば反対派もいるしで、職場に微妙な雰囲気が漂っていることには違いがないそうだ。カタルーニャ州閣僚に逮捕状がでた先週金曜日は夜10時からみんながバルコニーで鍋やフライパンを叩いて中央政府に抗議の意志を示したらしい。
「らしい」というのは、住宅街ではかなり騒々しかったそうだが、ぼくが泊まっているホテルは住宅から離れていたことと防音がしっかりしているためぜんぜん気がつかなかった。
バルセロナの人々には心の底に鬱屈したモヤモヤ感があるが、ぼくのような単なるツーリストにはそこまでは分からないことが分かったのだった。
11月に入って独立機運は盛り下がってきたが、街にはクリスマスの飾りが増えてきた。
季節感に乏しいバルセロナだが、クリスマスの飾りに年末が近づいていることを感じる。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません