スペインで一番美しい村は秋が一番美しい【アルバラシン】
スペインでいちばん美しい村、アルバラシンは、アラゴン州の渓谷の奧、断崖上に築かれた中世の城塞都市だ。
古くはイスラム教徒の国アルバラシンがここにあり、難攻不落の都だった。「アル」はアラブの言葉の定冠詞だから、その名からもこの町がイスラム起源であることがわかる。当時、スペインには20以上のイスラム スルタン国が建ち並び、アルバラシンはそのひとつだった。
12世紀に、アラゴンでもっとも名高いキリスト教徒の王ペドロ3世が領有してからは、アラゴン王国の地方都市となった。時代は下って現在はアラゴン州の地方自治体。人口千人ほど。規模からいえば小さな村だ。
アルバラシンへはレンタカーが便利
高速鉄道AVEの駅、サラゴサ駅構内にあるレンタカー大手Europ carで車を借りた。さっそく駅前から高速道路にのってアルバラシンに向けて南下した。
田舎巡りの旅は、公共交通機関を利用したら移動が大変だ。バスは1日に1往復しかしていない村が少ないない。アルバラシンもそのひとつ。こういう村へのアクセスはレンタカーを利用するのが便利だ。
ヨーロッパの鉄道駅は町外れに位置しているから、慣れない車を運転して町中を走ることなく高速に乗れて便利だ。
とはいっても、ヨーロッパではAT車がほとんどなくてMT車ばかりなのは仕方がないとしても、運転席が左側にあるから、左手でハンドルを持って右手でギアを操作するのが我ながらぎこちない。右側通行に慣れるのに少なくとも3日はかかってしまう。
スマホをナビにしてアルバラシンへ
高速を1時間半ほど走ってから、一般道へ降りた。ミシュランの地図も持っているのだが、運転しながら地図を広げられないから、スマホのカーナビを頼りにしてハンドルを切る。
Googleマップのナビ機能は、Yahoo!カーナビに比べて、案内がイマイチな感じじゃない?。例えば、日本には無いけどヨーロッパには普通にあるラウンドアバウト(ロータリー)交差点に入ったとき、何番目の道で出るのか、音声案内の説明が分かりにくい。
直進の道を「2番目の出口」といったり「3番目の出口」といったりで、どの出口なのか悩まされるし、そもそも「1番目」が自分が走ってきた道なのか、最初の出口なのかも判然としない。交差点でもたもたしてらんないけど、分からなければラウンドアバウトだから分かるまでぐるぐるまわっていればいいんだけどさ。
あと、二叉の分かれ道でうんともすんとも言わずに、黙っていることがある。どうなってんだか、このナビ。
でも、おおむね役立ってくれていますな。
アラゴン州の山間は紅葉が美しかった
高速を降りてから30分ほど風光明媚な山間の道を走ると、今日の目的地アルバラシンに到着した。サラゴサ駅から2時間の運転だった。
紅葉が実に美しく、黄色が輝いて見えた。
今晩の宿にチェックイン
アルバラシンの町は丘の上にある。町に入る道には大きな進入禁止の標識が2つもあって「絶対入るなよ」感にあふれている。どうしたらいいんだか。今日の宿は丘の上にあるんだよなー。
とりあえず町の外の公営パーキングに車を停め、進入禁止の標識脇の階段を100m上の町まで登って、宿へ行って女将にレンタカーで通れる道を教えてもらった。
そして、また階段を降りてきて、車に乗って宿へ向かった。
ヨーロッパの古い町は小型の車がようやく通れるだけの幅しかないから、町を通るときもサイドミラーが擦れないかヒヤヒヤした。
小さな町だけれど途中で道を間違えてバックしたり、ちゃんと通れるか確認しながら進んだりして、ようやく町の中心のマヨール広場へやってきた。
広場にたった一軒のバルでツーリストたちが食事をとっていた。もうランチの時間か。
借りたのはフォルクスワーゲン。
今晩の宿は車の向こうの階段を上った先にある。
カサ サンティアゴという宿で、ブッキングドットコムで見つけて予約した。部屋はたいへん可愛らしく、中世の民家を訪れた気分を満喫できる。
もしかしたらいちばんいい部屋をあてがってくれたのかな。3階の奧で、窓からマヨール広場を中心に町がみえる。これが2階の部屋だったら向かいの家の壁しか見えない。
室内は暖かく、日中はもちろん翌朝も軽装で過ごせた。朝食もおいしかった。ハムとソーセージは村でつくられていて豊かな味がする。本物のハムやサラミを食べられるのはヨーロッパ旅行の楽しみのひとつ。
アルバラシンに着いてから、 宿にチェックインできるまでに、この記事に書いてあることをしていたら1時間半もかかってしまった。道さえ分かっていれば5分でできることに、ずいぶん時間を要したが、ようやく落ち着いた。この試行錯誤の行程が旅の楽しみというものだね。
中世の町を散策
マヨール広場から四方に伸びる道は、いずれも小型車がぎりぎり通れるくらいの幅。
アルバラシンの家は、扉や窓枠の装飾が凝っている。ドアノブの細工を見ながら歩いても楽しい。こんなドアノッカーぼくもほしいなあ。
といって、日本の家にこのドアノッカーをつけても、あんまり使われないかな。とくに日本の田舎の家は玄関があけっぱなしだから、ぜんぜん使われないだろう。
分かれ道に建つカサ フリアネータは、アルバラシンでもっとも古い家のひとつ。
上層階ほど床が広い構造になっていて、狭い土地を有効に使う発想は、他の国でもときどき見かける。そういえばネパールのカトマンドゥのバザールもこんなで、通りに日の光が入らないからいつも薄暗かったな。
この家は木材と石膏でつくられていて、古い時代の雰囲気がよく残っている。
城塞都市アルバラシンを外から眺める
アルバラシンから渓谷をはさんだ丘に登ってみよう。ぐるりと町の周りを歩ける。町を眺めるのに最適。
蒼い空と、断崖につくられた旧市街、それを囲む土色の城壁の様子がよく分かる。
アルバラシンの保存発展に努めるアルバラシン財団の財団長アントニオ ヒメネス氏によれば、アルバラシンは秋に訪れるのがいちばんよいとのことだ。なるほど、これまでの紅葉の美しさを見ると頷ける。
理由はそればかりではなく、10月中旬からツーリストが激減するので、静かな中世都市の趣が堪能できるから、だそうだ。ぼくはちょうどいいタイミングで訪れたのだなあ。冬は寒いから、やっぱり秋がいい。
アラゴンの人たちは穏やかだった
アルバラシンには、どこへ入ったらいいか迷うほど、感じのいいレストランが何軒もある。
外に置かれたメニューを比べて、おいしそうな鳥の煮込み料理を出す店に入った。田舎町の夜なんでガラガラかと思ったら、意外なことに(?)人気の店で、ほぼ満席だ。
店のおじさんはきさくないい感じの人だった。
アラゴンの人は物腰がやわらかい気がする。これまでの数日間、よく気を遣う、親切な人に会うことが多かった。
そうこうするうちに夜が更ける。
夜景の写真はPanasonic GH5 + VARIO-ELMARIT 8-18mm /F2.8-4.0。
三脚につけてオートで撮影、露出補正+2.7、Lightroomで現像した。
スペインで最もチーズが美味しい村
アルバラシンは「スペインで最もチーズが美味しい村」としても知られている。チーズ界では権威のあるコンテスト「世界チーズ大賞」に出品された3000を超えるチーズのなかから、毎年のように金賞を受賞しているのがこのアルバラシンチーズ。

実は、ワインと一緒にチーズを食べると、匂いと味にワインの風味が負けてしまう。そのため安物ワインでも美味しく感じるというメリットかデメリットか分からないのがチーズ界の悩みだった。
そこで「ワインに合うチーズ」をコンセプトにつくられたのがアルバラシンチーズ。クセの無いまろやかな味は「チーズのハモンイベリコ」とも評され、ワインと共に味わうことが推奨されている。アルバラシンチーズの直営店は、アルバラシン旧市街から3kmほど先の道沿いにあるからレンタカーで来た人は立ち寄ってみよう。
直営店でなくても、市内はもちろん、テルエルやサラゴサでも手に入る。
スペインでいちばん美しい村とは
「スペインでいちばん美しい村協会」という団体があって、そこが美しい村を50ほどリストアップしている。
アルバラシンはそのひとつ。だから「いちばん美しい村のひとつ」ということ。本当にいちばんがどの村なのかは決まっていないみたい。
確かに、景色も人も、たいへん美しい村であった。
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