D7000のインプレッション
D7000は、小型軽量なのにキビキビ動いてよく写ると評価が高いカメラで、プロにも愛用者が多い。ニコンユーザーのみならず、評判を聞いて他社ユーザーが取材用カメラとして購入するケースもあるそうだ。
ぼくはフットワークよい撮影を心がけているから、D7000をメインカメラにするつもりで昨年3月に同時に2台を購入した。一年間使ってきたところで、インプレッションを書いてみる。それまで使っていたのは(今も使っているが)D300を2台。だから主にD300との比較になる。
まず、D7000のよい点を列挙する。
写真はニコンのサイトから引用致しました。今回のブログの本文を書いてからニコンのサイトを見たら、ぼくがいい点だと思ったことがそのまま「新製品の特徴」として列挙してあったので(^_^;)。ニコン開発陣の努力はしっかりぼくには伝わっていました。
【小型軽量】
D7000のよいところは、小型軽量なのにキビキビ動作し、上位機種を凌駕する機能を多数もつこと。重量実測791g(SDカード・バッテリ込み)。サイズはD300より二回りくらい小さい。にもかかわらず最低限の防塵機能がついている。
その上、昨年なら、そして充分な光量がある環境ならと条件付きだが、ニコンで最も優れた描写をするカメラだったこと。もしかしたらD3xのほうがよりすっきりした仕上がりできれいだったかもしれないが、あちらは価格が70万円と本機の10倍するからそうであっても仕方がない。
D7000は取材用カメラとしてはバランスのとれたベストバイカメラだ。
素性のよい撮像素子で、階調が豊富なため従来より高画質になっている。ただし高感度撮影は、RAWならD90に比べてさして向上していない。せいぜい半段よくなっている程度。ぼくはRAW撮影だから、D7000の高感度の性能はこれまでのAPSカメラに比べてよくなったとはほとんど感じていない。
【画像エンジン・エクスピード2】
画像エンジンがエクスピード2になって描写がよくなり、肌色もきれいにでるようになった。CS5 Camera RawとCapture NX 2とで現像結果をくらべると、ほとんど見分けの付かない写真になることもある。従来のニコン画質に比べたら大変な進歩である。
またJPEG撮影(またはNX2でRAW現像)時は高感度撮影のノイズ処理が見事で、ノイズがあまり感じられないクリアな写真になる。
これらのことから、他社製RAWソフトの必要性をあまり感じなくなってきた。いやはや大変な向上ぶりである。
しかし、本年に発売されたD800にはもうエクスピード3が搭載され、Jpeg画質はさらに進歩したようだ。最近のニコンの勢いは「驀進中」という言葉がふさわしい。
【モードダイヤルにU1・U2が付いた】
U1はスナップ用、U2は大型ストロボ撮影用と設定すれば、条件が変わりやすい、忙しい取材撮影に便利。たとえば、
U1スナップ用は
露出Aモード
WB自動
感度100
自動感度調整ON
最低シャッタースピード1/100
最高ISO感度1600
といった具合に、なんでも自動で撮影できるように設定する。
U2大型ストロボ撮影用を
露出Mモード
絞りf11
ss 1/250
WB5200k
感度100
自動感度調整OFF
といった感じで大型ストロボ撮影の基本設定にしておく。
ほかに、U1屋外用・U2屋内用としたりで、便利使える。これだけの設定をいちいち切り替えるのはわずらわしい作業だ。よく、後でどれかを戻すのを忘れてシマッタ!と思うことが時々あったが、それがなくなった。できればU3・U4まで用意されたら尚よい。
【リモコンの受信部が前後に新設】
カメラを三脚に着けてリモコンでシャッターを切るとき、これまでのニコンのカメラはワイヤレスリモコン受信部が前部にしかなかったので、手を前に出してリモコンを操作しなければならなかった。これって大変不便で、だからワイヤレスリモコンは使わなかった。といって有線は、悪評高い10ピンジャックは脱着が面倒でこれもあまり使いたくなかった。
D300ではTWIN1 R4Nというベルボンから発売されているワイヤレスリモコンを7000円くらい出して買ったが、これも結局使わなかったな。なんか不便で。
それがD7000は純正リモコンの受信部が前後にあるからリモコンでシャッターが切れるカメラになった。おかげで、リモート+ミラーアップ撮影が簡単にできるようになり、ブレ追放に役立つ。
【SDカードのダブルスロット】
D7000はメディアがSDカードのダブルスロットになった。スピードの点ではCFに及ばないが、実用上はこれで不自由ない。2枚あれば充分な容量を確保でき外出時に予備を用意する必要がほとんどない。
そして、カメラと共に世界中を持ち歩いているMacBookProにはSDカードリーダがついている。ホテルに戻ってからいちいちカードリーダを繋ぐ必要がなくなったのも有難い。毎日の作業をひとつでも減らしたいからね。
【バッテリチャージャーの電源コードが長さ0cm】
これまで、カメラ付属のバッテリチャージャーの電源コードは長すぎた。長いコードは旅には邪魔だし部屋の中でも邪魔で、いいところがない。ぼくはいつもコード長さ0cmの市販のコンセントをヨドバシカメラで350円で買っていた。それが、D7000にははじめから180cmと0cmの2種類のコードが付属している。ニコンさん、現場のことがわかってるじゃん、と嬉しくなる心配りである。
【設定をSDカードに書き出せる】
撮影中に諸々の設定を変えたとき、どれを変更したか忘れてしまい、元に戻すのに難儀することがある。D7000のセットアップメニューには「設定の書き出し・読み込み」機能があって、SDカードの設定を保存できる。
実は、これはD300あたりから付いた機能なのだが、最近まで知らなかった。複数のD7000を持っていて設定を揃えたい人に便利だ。なお、この機能を使うには、同じカメラの同じファームウェアバージョンでなければならない。
続いて、ぼくが使っていてここはちょっとなあと感じた点をあげてみる。
【安普請】
価格を考えれば仕方がないが、D7000は造型が安っぽい。少し大げさに言うと、重いレンズをつけて振りまわすと各パーツがそれぞれガタピシいってる感じがする。
カメラを構えると、グリップの小指の位置にあるゴム製の四角いフタがパカパカと開いてなんだか気になる。そしてシャッターを切ると、右手の親指の付け根あたりにバシッという衝撃を感じる。シャッター幕だかミラーだかの停止時の衝撃をボディが上手に分散させることが出来ずにグリップ下方に伝わってくるのだ。
こうしたことは、これまで使ったどのカメラでも感じたことなかったし、モデルチェンジ前のD90でも感じなかった。
さらに安っぽさを感じるのはマルチパワーバッテリーパックMB-D11を着けたとき。取付ノブをいくらしっかり締めてもカメラとバッテリーパックに一体感がなく微妙にぐらぐらする。VR24-120/4程度の重さのレンズでもつけたらカメラとグリップがたわむのが分かる。これがVR70-200/2.8だとミシッという音が聞こえる気がするほど(するという意味ではない、念のため)。
MB-D11を付けて三脚に載せるのは操作性の点からいって無理だ。D7000はともかくとして、MB-D11は結構いい値段なのだからもっと精度がほしい。
これがD300ならバッテリーパックMB-D10を装着してもいささかも揺らぐことはない。三脚に載せて微調整もできる。さすがフラッグシップとして世に出てきたカメラだけあってしっかり作ってあると感心する。D7000は精密機械としての魅力も、撮影機械としての使い勝手もD300に及ばない。
D300は発売開始後4ヶ月目に1台18万円で購入したが、D7000は同じく発売開始後4ヶ月目で1台たったの8万円だったから、値段は正直であるとしか言いようがない。
【再生時中央拡大機能がない】
背面モニタで画像再生している時、D300など他のカメラではマルチセレクター中央を親指で一回押せば、一発で画像を最大拡大し、しかも合焦部分を拡大できる。これは大変便利な機能だ。もしこれがなかったらピントチェック時、拡大ボタンを何度も押し、次に画像を上下左右に移動するとかして小さなモニタ中で合焦地点を一所懸命探さなければならない。
忙しい撮影中にこんなことしてもたもたピントチェックなんてやってられない。でもD7000にはそれがないからせざるを得ない。この機能はニコンカメラのアドバンテージのひとつなのに、どうしてついていないのかね。
【ファインダー内に表示される格子線の幅が太い】
この問題は他のAPSカメラと共通で、液晶表示だから仕方ないのかもしれないが、ファインダー内格子線の線幅が太すぎる。例えば、建築撮影時にはまず壁の角などの垂直線と格子線とを合わせて水平をとる。ぴったり合わせると、格子線の幅が太すぎて壁の垂直線が隠れて見えなくなる。そのため、格子線の幅の分だけ傾いたとしてもそれが分からないのである。これで0.3度くらいはすぐに傾いてしまう。
以前使っていたF4やF100は格子線が細かったからこんなことはなかった。
線幅が太いのは液晶表示のせいだろう。液晶表示を廃止してファインダースクリーン式に戻してほしい。液晶モニタがあることでファインダー像も見えにくいし。というわけで、フィルムカメラの頃はファインダースクリーンを交換してまで使っていた格子線は、デジタル時代になってからぜんぜん使っていない。
【infoボタンがボディ背面右下にある】
D300はinfoボタンが左側にあった。だから左親指でinfoボタンを押して、次いでISOボタンなりWBボタンなりを左親指ですぐに押せる。指の動きは無駄がない。
それが、D300sもそうだがD7000では独立してinfoボタンが右下に配置された。この配置はよくない。infoボタンを押すのが左親指であっても右手親指であっても、指を大きく動かさねばならず無駄な動きが多くなる。
nfoボタンの理想的な位置はD4のそれ。D7000でも何とか工夫してinfoボタンをD4と同じ位置にもってきてほしい(難しいかもしれないが)。
【水準器の精度向上】
精密な水準器がついたとカタログで謳っていたから喜んだ。ぼくは撮影画像が左に0.45度傾く癖があって、この補正に役立つか期待したのだ。しかしぬか喜びであった。
D700もそうだったが、実際に使ったら傾斜の誤差範囲がなんと1度もある。傾斜1度というとかなり大きい。ぼくの感覚では、露出でいえば測光誤差が1EVあるカメラみたいなもの。これでは使いやすいとは言えない。
建物が写っている写真は、傾きが0.3度より多くなると結構気になるものだ。もしかしたら、あまり精度を高くすると手持ち撮影の初心者が水平がとれなくて苦情殺到するから、この許容誤差を設定したのかもしれない。そういうことなら標準設定はそれでもよいが、精度をより厳密にできるように設定できるようにしてほしい。
それから、ライブビュー時に表示される水準器のデザインが垢抜けないから、これもすっきりさせてほしい。見栄えがしないだけでなく、画面を大きく遮っていて構図をとるのに不便だ。どうもニコンのソフトウェア関連には、表示やアイコンをデザインするセンスがないようだ。カメラのカタチをしたマークなんてダサダサ。見ただけで気分が萎える。表示関連は、グラフィックデザイナーなど専門業者に依頼してはどうかと思う。何ならよいデザイナーを紹介しますよ、Nikonさん。
今度は、長所と短所が混在している部分について書いてみる。
【視野率100%のファインダー】
カタログには視野率100%と書いてあるがやや誇大表示で実際には視野率98%くらいかな。しかもうちの個体はファインダーが少し右にずれている。撮影した写真の左側にファインダーで見えていなかった物が写っていることも。それでも視野率98%といえば立派な水準である。昔の他社のフラッグシップ機、キヤノンNew F1やオリンパスOM-4がそのくらいだったから、充分に高い水準であり、ぼくは不満を感じない。
しかし、ファインダー倍率0.94倍は充分とはいえない。オリンパスOM-4はフルサイズ(フィルム)のカメラだが倍率0.84倍もあったもんだ。あれは広々とした視野だった。できたら、APSのカメラなら倍率1.1倍くらいはほしいな。
ファインダー倍率が低いことは、マグニファイヤーを着けることで対応している。
マグニファイヤーは各社からいろいろ発売されていて、ニコン純正DK-21M、オリンパスME-1、MS OPTICAL製 MS-MAG など遍歴を重ねてたどり着いたのが、Tenpaという中国のメーカーの1.22倍マグニファイングアイピース。これが一番接眼レンズが大きくて、その分見やすい。D7000に着けたらファインダー倍率1.098倍となり、フルサイズ換算で倍率0.73倍だ。これならD800の視野率100%、倍率0.7倍と比較して数値上は遜色がなくなる(実際の見え方が遜色ないという意味ではない)。なお、Tenpa製1.3 倍のマグニファイングアイピースは倍率が大きすぎてファインダー視野全体を見渡しにくい。
さて、根本的な問題がひとつ残る。ファインダースクリーンの仕様・ファインダー倍率が不十分なこと・液晶盤が挟まっていることなどの負の相乗効果によって、ピントのキレが分かりにくいこと。ピントは一眼レフのファインダーでもっとも重要なポイントなのに。もっとも現代のAF一眼レフは、他社も含めてほとんどがピントのキレが分かりにくいから、これも世間並みというところかな。
【1600万画素の撮像素子】
せっかくこんなに画素数が多いのだから、1.2倍クロップモードをつけてほしい。そうすれば望遠でスポーツ撮影するときはAFエリアがファインダー内ほとんど全域をカバーするからすごく使い勝手がよくなる。
それに扱いが小さいカットはファイル容量を小さくしたいしね。どちらかというとこっちが主な理由。これって簡単なことだと思うんだけど。
【液晶モニタの忠実度】
D300の液晶モニタは高精細ではあったが、再生画像がハイコントラストすぎて暗部がつぶれて見えた。アマチュアの人がキレイに感じるようにチューニングされているからだ。
それくらべるとD7000の液晶モニタは、暗部があまりつぶれないから画像確認をしやすくなった。もちろん欠点はあってライブビュー時に拡大画像の細部が荒れて見えにくいのだが、そんな欠点も気にならなくなるほど階調性がよくなって嬉しい。
しかしながら階調性の更なる向上が望まれる。とにかく、カメラの設計者に強く申し立てたいのだが、実際のデータよりコントラストが強く見えるようモニタをチューニングするのは止めてほしい。
【液晶モニタのメニュー】
メニュー項目が充実して、自分なりのカメラにすることができて便利だ。気になるのは、Menuボタンを押してから表示が現れるまでに一瞬待たされること。再生ボタンも同様だ。わずかなタイムラグだが、忙しい撮影の時はその一瞬でテンポが崩れる。素早く表示されるよう改善を望む。
【カメラ内RAW現像機能の使い勝手向上】
D7000のRAW現像機能がついていて、結構遊べる。
しかし、一枚ずつセレクトして設定してからでないと現像できない。
こんなに使い勝手が悪すぎる。全コマ一括現像できるようにしてほしい。そうすれば家に帰るまでに現像が終えられ、帰宅後の時間が有効活用できる(かも)。なんだか、ぼくの要望を書き連ねた文になってしまった。
【その力は、想像を超える】
ニコンのウェブサイトを見ていたら、D7000に「その力は、想像を超える」というキャッチコピーが付けられていた。下がその引用。
「想像を超える」って簡単に言うけどそれは結構スゴイことだ。
果たしてD7000の力はそのコピーにふさわしい実力があるのだろうか。
そこで画質の検証をしてみる。
自分で撮った写真を比べてみてもいいんだけど、今日はDxOのスコアを引用する。
DxOは、フランスのソフトウェア会社で、デジタルカメラの撮像素子(センサー)の性能を計るサイトを運営している。また独自のRAW現像ソフトも制作販売しており、日本ではソフトウェア・トゥーが販売している。
この際だから他社のメインカメラと比較してしまおう。
キヤノンからは新製品のフルサイズ機EOS 5D3(実売32万円)、ソニーからは3年前の最高級機α900を選ぶ。α900はすでにディスコンだがソニーは現在最高機がないし他に適当なカメラもないので(独断)これで比較する。スペースが余ったのでついでに2008年発売のEOS 5D2(実売16万円)も載せる。
D7000の総合成績(Overall Score)は80点。EOS 5D3より1点下で、Sony α900より1点上だ。各社の高級フルサイズ機と僅差とは驚異的な性能である。Sony α900とEOS 5D2は同点だ。
素晴らしいのはダイナミックレンジで、
D7000が13.9Ev、EOS 5D3は11.7Ev、Sony α900は12.3Evと、
D7000が圧倒的にレンジが広い。お陰でハイライトの描写が格段によくなった。これまでのカメラでは真夏の日中炎天下は明るいところが飛んでいたが、D7000はそれが少ない。
残念ながら高感度性能は、やはりAPSはフルサイズに及ばない。D7000がISO1167、EOS 5D3はISO2293、Sony α900はISO1431と、5D3には1段近く差をつけられているが、これは仕方ないね。
もちろん、写真の画質は撮像素子以外にも画像エンジンの力やレンズの力によっているから、この結果はあくまで「要素の一つ」。それに一眼レフはシステムカメラであり、システム全体を見渡さないと総合的な力は判断できない。
しかし、デジタルカメラの心臓部ともいえる撮像素子の性能が重要なことは間違いない。APSカメラにもかかわらずD7000は、撮像素子の総合成績でフルサイズのCanon EOS5D3の僅かに下、EOS 5D2より僅かに上、つまりはほとんど同じ位置あるのだから、確かに想像を超える力を持っていると言ってよい。
【軽くて・操作性が高くて・高画質】
D7000はこの三つの要素がちょうどいいところでバランスがとれている。もっと軽いカメラはあるし、もっと堅牢なカメラもあるが、一日中持ち歩く取材カメラ、あるいは旅カメラを探しているなら、いま市場にあるカメラのなかではD7000がベストな選択だろう。
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