【ポルト】魔女の宅急便の舞台となった街を、カメラを持って撮影散歩
ポルトガルの古都ポルトは、ドウロ川を挟んで街並みが広がるその独特な美しさと歴史から、手前のワイン蔵から奧に見える時計塔まで、この写真にうつる地域がすべて世界遺産に指定されている。
川の両岸に広がる街というだけなら珍しくないが、ポルトの美しさを際立たせているのは、両岸が丘で風景が立体的に広がっていることだ。ぼくはこの街が大好き。
ところで、この雰囲気をどこかで見たことがない?
「魔女の宅急便」の舞台の街"コリコ"
宮崎駿監督作品のアニメーション映画「魔女の宅急便」で、主人公の女の子キキがホウキに乗って空を飛んで街に出てくるシーン。そのとき、キキが空のうえで手にしている地図がこれ。
川の南北に街があり、両岸にいくつもの橋がかかっている。そして西側は宏大な海。まるでポルトの地図を見ているかのようじゃない?
ポルトを流れるドウロ川にも、自動車道路や鉄道橋が短い間隔でいくつもかかっている。
なかでもドン ルイス1世橋は、19世紀の科学技術と建築美術の結集した優雅な橋。建築設計者はエッフェルの弟子セイリグで、エッフェル塔と同じく巨大な鉄骨をもちいてつくられた、全長395mもの巨大建築だ。
20世紀までは、ドン ルイス1世橋は両岸を結ぶ自動車道路だった。現在は都市計画によって市電と歩行者のみが通る道になった。自動車は一切通行できない。
ごらんのとおり空間に余裕ができて、建築遺産の維持保存の点からよい決定だと思う(この橋は上下の2階式で、下は今も自動車道路として用いられている)。
ヨーロッパではこのように都市の大通りから車を閉め出して、歩きやすく生活しやすい人間優先の街づくりが各地で進められている。
ポルトの街並みは魔法使いに好まれるらしい
宮崎駿は「魔女の宅急便」の製作開始前の長期休暇にポルトガルを選び、そのときにポルトにも滞在している。この旅行はロケハンではなく、制作期間のあいまのプライベートの休暇だった。そのため公式には魔女の宅急便の舞台とされていない。しかし、滞在時期と、景色がよく似ていることからいって、この町が作品のイメージのひとつになったことは伺える。
「魔女の宅急便」といい「ハリー ポッター」といい、ポルトは魔法使いに好まれる街なのだね。
ただ、コリコの街並みは空からみると南欧風なのに、個々の家は北欧風だったりして、ヨーロッパのいろんな風景をモチーフにしている。そして時代背景も、登場する英国製複葉機は1930年代のもの、貨物列車の機関車はスウェーデンのNOHAB社が1950年代に生産したものだし、その後のカラーテレビもあって、幅広いというか、バラバラだ。
そう、コリコは「カリオストロの城」をはじめ宮崎作品ではお馴染みの、無国籍な、架空の街だ。そのまぜこぜなイメージを宮崎駿はインタビューでこう語っている。
悪戯心でストックホルムのシティ・ホールとイタリアの町をドッキングさせてね、その裏側にはゴットランドのヴィシビーの町を下町においてとか、坂道はサンフランシスコだとかね、その両側はパリにしようとかね。これはアメリカ人わかんないですよね。日本人もわかんない。ヨーロッパ人はすぐにわかりますよ。それを確信犯でやったんです。モノクロのテレビと、複葉機のどっちが古いかわかんない人はいっぱいいる。(SIGHT 2002年 WINTER号 特集「宮崎駿はなぜ世界を肯定できたのか」)
下町風情たっぷりな、橋のたもと
ドン ルイス1世橋のたもとは食堂が並んでいて、食事時はすごく混雑している。
この雰囲気、どこかでルパン三世と次元大介が食事をとっていそうな感じだね。“カリオストロの城"にこんな景色があったかな。
宮崎作品の舞台は、南欧風の町並みがよく登場する。このごちゃごちゃ感と、人情味あふれる様子が、宮崎駿の好みなのだろう。北欧の町並みはずいぶん異なる。
赤い屋根と時計塔は宮崎作品につきもの
まるで、キキが空を飛ぶときの背景画のようなポルトのオレンジ色の屋根。
ポルトに限らず、地中海沿岸諸国の家はみな屋根瓦がオレンジ色だが、それは素焼きでつくられているから。北国とは瓦の制作方法が違うため、色も違う。沖縄の瓦がオレンジ色なのも同じく素焼きだからだ。オレンジ色の屋根瓦が重なる風景は南国らしさを演出する手法だ。
そしてポルトに限らず、ポルトガルの街は坂が多い。
通りに面して洗濯物が干してあるのも南欧ならではの光景。英国やドイツでは、洗濯物を外から見えるところに干すのは違法で、そんなことをしたら即座に(本当に即座に!)近隣から注意される。やっぱり南欧の下町っぽい洗濯物がある光景が、宮崎作品らしく感じる。
時計塔もみえる。よくネットで「時計塔があるからこの街が宮崎アニメの舞台になったのだ」と書かれた記事をみる。「この街」はポルトとは限らず、ヨーロッパ各国の街だったり時にニュージーランドの街のことだったりするが、時計塔は西洋の街ならどこにでもあるものだ。
それに宮崎作品には時計台がつきもので、「ルパン三世 カリオストロの城」やジブリの「千と千尋の神隠し」「幽霊塔へようこそ展」など諸作品で時計塔が重要な仕掛けになっている。時計塔とつぶらな瞳の少女は宮崎作品に欠かせない存在だ。時計塔があることは宮崎作品の舞台探しの根拠にはならない。
そういえば魔女の宅急便には市電が走るシーンもあったっけ。ポルトの街を走る市電は、映画で描かれる市電と雰囲気がよく似ている。
賑やかな風情は、宮崎作品で描かれる下町っぽいイメージそのままだ。
ポルトは、ポルトワインの本場
ポルトという街の名は、英語のポートと同じで港に由来している。それがここでは都市名であるところに古代からポルトが重要な港とされていたことがうかがえる。
市電に乗ってドン ルイス1世橋を対岸に渡ると、そこはポルト市ではなくヴィラ ノヴァ デ ガイア市という別の街だ。
世界遺産ポルトのふたつの顔とは
両岸あわせて「ポルト歴史地区」という世界遺産に登録されているが、ポルト市には魔女のキキが住んでいるような古い街並みがあるのに対して、ガイア市には酒蔵が並んでいるのだった。
此岸の酒造ではポルト独特の甘いワインがつくられて、完成したらそのまま船に載せて海外へと輸出される。主に英国人が好んだため、英語読みでポートワインと呼ばれることも多い。
酒蔵の前にはテーブルが並べられ、蔵出しのワインが味わえる。
表通りにも裏通りにも、大小の酒蔵がテーブルを並べている。全体がワイン蔵みたいな地域だから、酒好きにはこたえられない街だろうね。
レストランでも、誰もがそこかしこでワインを飲んでいる。
どのワイン蔵で見学と試飲をするか
ワイン蔵は内部を公開している。
というか、サンデマンやテイラーズのようによく知られたワイン蔵には観光客が押し寄せるから、みなから5ユーロ程度の入場料をとって、見学がビジネスになっているらしい。
昔ながらの樽で熟成する製法でポルトワインはつくられているそうだ。
有名無名のワイン蔵が並んでいるが、内部はどれも同じようなものだから、どの蔵を選んでもいいと思う。川岸から離れたワイン蔵は見学料が2ユーロくらいで安い。
15年前はサンデマンでも見学料は無料だったし、それでもお客は少なかったのだから、グローバルツーリズムの影響でポルトの旅行事情は大きく変わった。魔女の宅急便のような下町情緒のある町並みも、だんだんと小綺麗な街に変化してきている。
せっかくだからレストランを併設したワイン蔵に入ってもいいかもしれないね。見学を終えたら、テイスティング。
あまくておいしいワインだ。ぼくは酒が弱いから、昼間に飲むことは滅多にないんだけど、おいしそうなのでいただいてしまった。やっぱりおいしかった。
だんだん日が西に傾いてきた。
ポルトという街の名は、後にポルトガルという国の名になった。この地域がポルトガルの発祥の地(のひとつ)なのだ。すごいことだなあ。
こうして、坂を登ったり降りたりしているうちに、一日が終わる。
夕飯はどこで食べようか。
ぼくは静かな環境が好きだから、橋のたもとはすこし賑やかすぎるな。少しドウロ川から離れた、路地裏の食堂を探すことにしよう。もしかしたらキキのような少女が給仕をしているかも、と期待して。
ディスカッション
コメント一覧
こんにちは。最近ブログを開設したばかり、まだ1記事も書けていない者です。
たまたまこちらのブログを拝見しました。
有賀さんがプロのカメラマンさんだからでしょうか、すごく見やすくて参考になりました。色合いとか線の細さとか全体がとっても柔らかく洗練されていいかんじ。
思わずコメントしました。これからも楽しみにしています。
嬉しいコメント、ありがとうございます〜
wpkonakaさんのブログの参考になれば幸いです(^^)